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開幕
はっ。今時そんな御伽噺信じるはずが無いだろう。アメリカ人はそう思っちゃいないようだが、俺たち英国人から見ればそりゃホント、冗談にもならない冗談だよ。魔術やらなんやら信じるほどばかげたことは無いさ。なんだあんた、そんなもの、いまだに信じてるのか。だった、これはとんだジョークだ。明日このくたびれた街が火の海になるっていうほうがまだ信じられるよ。
夢物語じゃない? 今はほら、このご時勢だ。蒸気機関に銃社会。そんな時代さ。一昔前は馬車が主流だったなんてことも、今の餓鬼どもはわかりゃあしねぇ。
あいつらは時代の波に乗って、適当に生きているだけさ。ただ、それだけだ。
生きる目的も何もなく、ただ死人が如く世界を放浪する。
奴らはそんな人生で満足しているのさ。
そう在るうちに、なんだぁ、その。やつらはこのアメリカって言う土壌にとけきっちまったのさ。
ああ、そうだ。アンタら新聞は読んだかい? あの例の奇妙な連続殺人鬼、まだ捕まってないんだってなぁ。英国から船に乗ってきたっていう。あれさ。
有名な「Jack The Ripper」てやつだよ。俺はなぁ、もっと奴のことが知りたいんだよ。
俺か? ああそうだ。英国から来たんだ。聞いての通り英国訛りだろう?
なあ、アンタ。英国訛りをいけすかねぇとか思ってるような連中の仲間じゃねぇだろうなぁ? 俺たちは自国の言葉に誇りを持ってる。お前らアメリカ人とはわけが違うのさ。
何せ女王陛下の国だ。
ああ、くそっ。らちもねぇ。くだんねぇ話で酒が冷めちまう。
なに? まだその話を聞きてぇのか。アンタらもくだらねぇ噂話が好きだな。
例の殺人鬼は、俺の見立てによるとな・・・・・って、おい。信じてねぇな。
あんた達がさっき酒場で話してた、笑えない冗談よりは気の利いた話だと思うけどね。まあ、とにかく奇妙な事件さ。あんたらも用心したほうがいい。
えぇ。なんだって? よく聞こえねぇよ。
もうちっとでっけぇ声で話してくれよ姉ちゃん。
ああ。なに? 何でそのJack The Ripperについて知りたいのかって?
おいおい。綺麗な姉ちゃんよ。そんなこと知っていったいどうするってぇのか?
この街に現れたかの有名な殺人鬼、その名もJack the
Ripper。その名前を知らねぇ奴なんていないだろう。ただの一個人の興味だよ、興味。
なにせ、つい十年だか、二十年だか前に俺の国で暴れまわった娼婦殺しさ。それが生きてるってぇんだ。おっかねぇことこの上ねえし、さらには頭がちがっていやがる。
その根拠は? やだねぇ、やけに突っかかるじゃないか、兄ちゃん。
うえへへへへ。ほらぁ、もっと飲めよ。
酔ってねぇとこんな話、ただの腐ったパンみてぇなもんだ。
マスタ〜ぁ。もう一杯、追加。
で、何の話だったか。ああそうそう。その根拠についてだったな。
そりゃあ、兄ちゃん。そんなの死体を見れば一目瞭然よ。普通の頭の人間に、ああも残酷なまねはできやしねぇ。
千切れた四肢、食いちぎられたような腹部、刳り貫かれた目ん玉、肉が剥げ脳ミソがむき出しになった頭皮、思い出すだけでも吐き気がする!
あちこちに飛び散ってる血痕の量はハンパねぇ。
うう、きもちわりぃ。
あ? なんだ。何で詳しく知ってるのか?
この目で見たからに決まってんだろ。はぁ? 知りたい?
馬鹿なこといってんじゃねぇ。
たく。最近の若い奴らときたら興味本位で何でもかんでも知りたがる。ジジィに突っかかってそんなに楽しいかぃ?
はいはい。分かったよ。そんな顔すんなって兄ちゃん。今にも噛み付きそうな猟犬みたいな目で俺を睨むのはやめてくれ。そんなに知りたいのか・・・・・・。あんたらも物好きだなぁ。なら教えてやるさ。くだらねぇ噂話の範囲でいいならな。
ああ。見たんだよ。ここに来る前な。近くの漁港でよ。
死体に群がってたのはアメリカの警察の連中だ。
まったく、ご苦労なことだ。死体を処理するほうの身にもなってみろ。列車に跳ね飛ばされた死体と同じくらいご苦労なことだ。四方八方に飛び散った肉やら血やら、髪の毛やら・・・・。
うへぇ。おぞましい。
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