薔薇(R O S E)


「蒸気機関船による造船業は今がまさに花ですからね。世界一とどの会社も銘打って、立派な船を作り出しているのは事実です。カルパチア号の処女航海はとても面白かったですよ。あれほどのサーヴィスが施された旅客船などめったにありませんからね。その船は、というとそれ以上大型のものだというのですから、かくもあろうというものです」

「ああ、世界一の豪華客船か。今のうちからチケットの予約がされているらしいが、処女航海の航路についての詳細情報は既に始まっているのかね?」

その話に興味があるのか、センツァバーグ卿がクランスに尋ねた。

「いえ・・・航路まではよく」

しどろもどろになるクランスをフォローするように頷いて、アルバート伯が話を促す。

「航路はまだわかりません。あ、そういえばその船のチケットですが、シーンズ・フォード社がいち早く一等席を幾席分か手に入れたという話を聞きました。早いことです」

「シーンズ・フォード社は確かドイツの製薬会社じゃなかったかね?」

「ええそうです。医療分野でも大変な成功を収めている会社だと聞きました。それから最近では変わった研究をしている、とかで。・・・変わった研究というと、アルバート伯、あなたも製薬会社と病院をいくつか経営しているそうですが」

 その言葉に、センツァバーグ卿は面映そうに目を細める。

 話を促すようなその表情に、アルバートは曖昧に笑った。

「ああ、まあ。いえ、私は経営者、という立場ですから、研究それ自体の詳細についてはあまり多くは知りません。ただ、研究者たちが研究しやすいように施設を整え、その研究の認可を下すぐらいで・・・・。ああ、御婦人方にはつまらないお話だったでしょう」

 やんわりと彼は微笑んだ。

 男性たちの話になってしまえば女性の出番は無い。紅茶を飲み終わったローズは義母と視線を合わせて、席を立ち上がった。あとは彼らのみの席にしたほうがよろしいだろう。

 ローズ達が立ち上がると、三人の紳士は揃って立ち上がる。

 アンナがローズの後ろで振り返り、小さく微笑んでどうぞごゆっくり、と呟いた。

 開かれた扉の奥へ、先にローズ、ついでアンナが出て行った。

 クランスは二人の婦人がいなくなると年長者と友人が座るのを待って座り、そうしてまた嬉々として蒸気船の話を再開したのだった。

 アルバート伯は、クランスの話に耳を傾けながらローズが消えていった扉を盗み見て、口の端を上げた。






    

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