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仲間
また来いよ、と老人はいった。次来るときは別の女性と来る時だ、と思ったクランスは、小さく嘆息してもう来ないよ、と言った。 ハットをかぶり、コートをしっかりと羽織って外に出れば、ステッキの先端が何かに埋まった。はっとして空を見れば、大粒の鵞毛のような雪がはらはらと降ってくる。その一つがクランスの鼻頭に当たり、小さな雫となった。 ポケットに入れたせいで少し盛り上がったズボンをかっこ悪いと感じながら、クランスは勝手に指輪を決めてしまったことに少しばかり罪悪感を覚えていた。胸ポケットに収めている懐中時計を取り出して、ぱちりと開ける。 時刻は一七時一二分を少し回ったあたりだ。 そういえばローズはどうしたのだろう。自分はずっと店の中にいたせいで外の様子を見ることもしなかった。あれではローズがいつの間にか来ていたということもわかりはしない。もしかしたら、時間より前に来て定時なる前にかえってしまったのかもしれない。それとも、クランスがここにいることを知らないで待っていたが帰ってしまったのかもしれない。 「どうしたものか・・・」 天を仰げば灰色の空。立ち並ぶ建物のせいで空は五年前と比べ随分と狭くなった。雪積もった道の上を歩けば、足跡が残る。人が前屈みで行き交っているニューヨークの街。夜になれば騒々しいほどの喧騒が、この、降り積もる雪のような静寂で二分される。 まあ、指輪の件は仕方が無い。彼女が気に入ったものを買おうと思っていたけれど、来なかったのだから、まあいいか。 一人ごちて、クランスは笑った。 ききっと音を立てて、目の前で車が一台止まった。驚いて目を見張ったクランスは危うく手からステッキを取りこぼしそうになった。 「何を急いで・・・・・?」 ややあって車から一人の男が降りてきた。見ればギリシア彫刻のように整った容貌、自分より七つも年上だとは思えない人物、そう、アルバート伯が降りてきた。何かを探すようにあちこちに視線を行きめぐらし、そしてクランスを見るなりものすごい剣幕で怒鳴った。 「今までいったいどこにいたんだ!?」 普段彼が敬語しか使っていないので、このような乱暴な物言いで、しかも怒鳴られたことがなかったクランスはぱちくりと目を丸くし、今度こそ本当にステッキを手から取りこぼした。音もなく雪の上に埋まったそれを慌てた様子で車から降りてきた従者が拾い上げた。それにしても、いったいどうしたというのだろうか。 「ええと、アルバート伯。いったいどうしたんですか?そんなすごい剣幕で?」 「どうもこうも・・・・・切り裂きジャックだ!!聞いていないのか、君は?街に出たらしい。それに、君の婚約者、レディ・ローズがかどわかされたという情報が入ってきている。警察当局はどこも大慌てだぞ」 「どう・・・いう」 目を見開いたまま停止したクランスの肩を無理やり引っつかんでアルバート伯は車の中に突っ込んだ。 「とにかく、詳しい話は車の中で」
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