仲間(R I N G)


車は緩やかなカーブを曲がり、そしてその門の前で止まった。まるで写真の中で見た英国の庭園風景を思わせるような手入れの行き届いた庭が左右に広がっている。車は自動で開け放たれた門の中を前進し、噴水の見える位置まで来ると左に曲がった。低木が林立するそのそばを抜けると門の前から見えた赤い屋根の大きな屋敷が徐々に見えてきた。

車はやがて屋敷の巨大な石段の前に止まる。

先にエミリアが車から降り、続いてローズが降りた。

「じゃ、姉さん。あとはよろしく」

どうしようもないポンコツだとローズは思ったが、それに関して口を挟むことはしなかった。ただ無言で、あちこち鉄の刃のようなもので抉られた車体を見つめる。黒い車はあちこち剥げ、銀色のアルミやらがむき出しになっている。バンパーはもちろんのこと天井もへしゃげ、全部あったはずの窓ガラスは無惨に割れているか途中までしか残っていなかった。

「頼みましたわよ、エヴァ。・・・・さあレディ・ローズ、こっちへ」

 エミリアという名の金髪の美女は真っ赤な唇に笑みを浮かべローズを誘導する。

「ここはいったい」

「先ほど話したとおり、ここがアメリカ本部ですわ。アメリカの本部は元はフロリダにありましたが、諸事情とある方の提案でこちらに移すことになったのが1861年。丁度、今から50年以上も昔です。元はアメリカ領事館の別荘だった場所で、ここは地図にも乗っていません。連盟と合衆国政府、そして我々との協議調停でここだけは秘密裏に管理されています」

 なんだかよくわからないけれど、とんでもないところだということは理解できた。

 白い石の階段を上がっていくと、大きな扉があった。同じく白い扉で左右に立て四つ横二つ筒の四角い額のような模様が掘り込まれてある。

「レディ・ローズ。その、下から二番目の四角い窓に手を触れてみてくださいませんか?」

 美女が指示したのは向かって左側にある四角い白い額だ。何のことかわからなかったが自然とがそこへ導かれ、触れるなり扉が音を立てて開いた。

「な、なに?」

 ひとりでに開いた扉なんて見た事が無い。ぱちくりと目を見開くローズの様子を見て、エミリアは口に笑みをつくった。

「さあ。どうぞ、中に」

促すように背中を叩けば、ローズは不審な人物に促されている事実にも関わらず、すんなりと中にはいった。

 パン、と音がして、耳元で何か弾けた。銃かと思って驚愕に目を見開いたローズの目の前に真っ赤な薔薇の花束と紙吹雪が舞った。

「おかえり!!」

「おかえり、ローズ!!」

隣で声が上がり、花束が差し出された。意味もわからずそれを受け取って、ローズはそれを見た。小さな子供、男の子だ。少年といったほうがいいのかもしれない。技師がよく使うゴーグルを頭につけ、ローズと同じ鳶色の瞳を悪戯っぽく輝かせている。

「ねぇ、エミリア? 記憶は?」

わくわくといった様子で少年が背後のエミリアを見た。

 記憶。何故、ローズの記憶が無いということを知っているのだろうか。

「K・・・・まだ、戻ってなくてよ」

 顔が凍った。少年は鳶色の目をエミリアから外しローズを真っ直ぐに見上げた。そして口を開き何か言いかけてやめる。そして一目散にこの場を後にした。人の間をすり抜け屋敷の置くに行ってしまったKの後姿を見送って、エミリアはふっと嘆息する。

「あの」

何か悪いことをしただろうかと、ローズは不安になって口を開いた。

「今はまだ、気になさらなくて結構ですわ。それよりも、ご紹介が遅れましたわね。わたくし、エミリアと申します。ここまで一緒に来たのでご存知だとは思いますけれど、車を運転していた腹黒が不肖ながらわたくしの双子の弟、エヴァ、エヴァンスですわ」

にっこりと緑色の瞳をローズに向けて、彼女は小柄な卵色の女性の後ろに回りこんだ。女性は柔らかく微笑んでこちらに歩み寄り、薔薇の花を抱えているローズの白い手を握り締めた。そしてぽろぽろと目から涙を零し始める。ぎょっとしたのは当のローズだけではない。その背後のエミリアまでも驚いたような表情をしていた。

「ああ。ローズ。よく無事で・・・・ずっと、あなたを心配していたのよ」

澄んだクリアブルーの瞳を見開いたまま涙を零す女性を見て、ローズは彼女が目が見えないのだということに気付いた。

 そして、どうやったら泣き止むのかをしばらく思案して、手に持っていた薔薇の花束から一本だけ薔薇を抜き取ると女性の髪に絡ませた。

「えーと、その。居心地が悪いので、泣かないで下さい」

 好いたほうの手で頬を掻けば、またわっと女性は泣き始めた。そして薔薇が肌に刺さるのも気にも留めずローズの身体を抱きしめた。

「う・・・わっ」

危うくつんのめりそうになったローズは、なにか固くて微妙に弾力があるものに後頭部をぶつけた。






    

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