仲間(R I N G)


おずおずと見上げれば、図体だけがやたらとでかい隻眼の人物が面白いものでも見るように、こちらを見下ろしていた。屈強そうな体躯のわりにはかなり引き締まっていることがわかる。黒い眼帯を左目にかけている男はにやりと笑った。顔のあちこちにはたくさんの傷が付いている。歴戦の猛者、というような出で立ちの男だ。

きょとんとしているローズに、やはりそうなるのですね、と諦めたように嘆息したエミリアは紹介を続けた。

「こちらの女性はカトリーナ、いえ、カナリア、後ろの図体だけがでかくてお(つむ)の弱い朴念仁そして(and)体力馬鹿がフィリップですわ。それから、先ほどどこかに行ってしまった子供・・・・・ゴーグルをかけたおちびさん・・・・・ええ、とにかく、あれがKです。K・ナイトというのは偽名です。Kの本当の名前を知っている人物はあまりいないのです。それから、今ここにはいないのですが、全身黒尽くめ、ある女性のことしか考えていない超絶バカ、もとい頭は良いのですけど、感情の無いなんと申しましょうか・・・・」

「あれだ、あれ。なんだっつーか、その、あれだ。根暗?」

「フィリップ、根暗なんて失礼よ。真っ直ぐでいい子じゃない」

「いい子? あの根暗で、なに考えてんのかぜんっっぜんわからねぇ、極悪非道、どこを切っても陰湿の二文字しか出てこないような男が? カナリア、いいか? あいつは幽霊(ghost)のようにフラーとやってきてはを見ているかわから無いような目をしてその辺をうろつくんだ」

 流石にこればかりには反駁しようも無い。事実だからだ。がっちりと肩をつかまれたカナリアはがくがくと揺さぶられて、目を回した。

 ローズは、そういえば思い当たるふしがあり、ちらりとそれを思い浮かべたが、記憶から即抹消したい出来事、存在だったのであえて何も言わなかった。

 目を回したカナリアを抱きとめながら、フィリップはまじまじとローズを見下ろした。

「おいエリー。こいつ、芝居じゃないのか? 本当に? まぁったく、記憶戻ってないのか?」

指差されて、ローズは何を言っているのかさっぱりわからないというような顔をして、それを見上げた。

「私もその筋を疑いましたが、あんな性格の人物がこうも妙な小細工をなさるはずはありません。何らかの理由があって一時的に記憶を失われているだけだとは思いますけど」

「ま、まあ。そうだよな・・・アハハハハハ」

 フィリップは脇腹の辺りを手で押さえた。あれのことを思い出すといつもここの傷が疼くのは、仕方が無いことだ。

 ローズはどうやら、ここにいる人物たちが、自分の何かを知っているらしいということにようやく気がついた。そしてそれは、ローズの過去に関係したことなのだと。

「何を話しているのか、よくわからないけれど。とにかくあなた方は、私の過去について、何かご存知なのですね?」

真っ直ぐにエミリアの方を向いてそう問えば、エミリアはうっと喉に何かつまった顔をして視線をそらす。ローズはバシバシになった髪の毛を掻きながら今度はその隣に、カナリアとか言う女性を抱きとめている大男に話しかける。

「もし、私の過去を知っているなら、教えてもらえませんか?」

何よりも、それがもっとも知りたいことだ。

 そういえば、先のエミリアと同じようにフィリップはふいと視線をそらした。そして凍りついた薄笑いを浮かべると、じりじりと後ろに後ずさった。

「おいおい。マジかよ。マジでコレ? おい!! やめてくれ。笑えねぇ冗談はやめてくれ!! マジであれが、コレ? しんっじらんねぇ!! ぎゃーぁ、おそろしすぎる!!」

首をぶんぶんと左右に振りながら、フィリップは後ろにおいてある花瓶に気付かないまま身をよじらせた。無論どうやら揺らしすぎて気を失ったらしいカナリアを片手に。

「あ」

 エミリアが言うのとフィリップのひじがそれに当たるのとほぼ同時だった。大きな花瓶は見事に床の上に落ち、粉々に砕け散った挙句、水を撒き散らして生けられていた花をぶちまけた。

「あーあ。やった・・・・・」

嘆息したのはエミリアで額に手を当てて天を仰いでいる。

 エミリアはフィリップのそばに歩み寄ると閑カナリアの身体を抱き起こし、引き摺るようにしてそこから遠ざけた。

「やれやれ。フィリップはやはり雑ですねぇ。姉さん、部屋の用意ができたそうですよ。おや? Kがいないようですが、どうしました?」

 扉を開けて中に入ってきたのは先ほど車を運転していた青年である。エミリアと同じ顔をしているが彼の方が背が高く、今は眼鏡をしていた。雰囲気も少し違う。彼は緑色の瞳を真っ直ぐにこちらに向けて、花束を抱えて呆然としているローズににっこりと微笑んだ。

「記憶が戻っていなくてとても残念です。レディ・ローズ。姉さんがどうせ先に紹介したとは思いますが、僕の名前はエヴァンスです。よろしくお願いします」

姉と一緒で礼儀正しい青年だ。

 白い手袋をはめた手を差し出してにっこり笑った彼は、クランスに少し雰囲気が似ている。そう、クランスに。






    

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