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仲間 「はっ。私、お暇しなくては。こうして和やかに自己紹介してる暇なんて無いのよ。と、とにかく急いで帰らないと・・・・・今日は、指輪。や、待って確か五時から伯爵が見えるはずで・・・今何時?」 ぐるぐるとその場で回り始めたローズははっとした様子で手に持っていた薔薇を手から落とした。そして振り返って、エヴァンスに詰め寄る。 「今何時?」 慌てた様子の彼女に、笑いを必死にこらえてエヴァンスはついとその背後を指差した。 エントランスフロアの奥にある階段に置かれた柱時計が18時半を示している。 「ぎゃ。ちょっと待って、ちょっと待ってよ!!ああ、なんてことかしら。ていうか、拉致されたって言うのにこの和やかさはいったい何ナノ?」 ぐるぐると頭で必死に状況を整理しようとしている彼女を見ながら、エミリアとエヴァンスは顔を見合わせた。 「しばらくは帰れませんよ、レディ・ローズ。あなたには我々に協力していただきます」 双子の兄弟のハモリ声が、終末の鐘のようにゴーンとローズの頭の中に響き渡った。 豪華な部屋だ。自分の家も豪華だと思ったが、ここ以上に無駄で豪華なつくりの部屋は無いだろう。壁にはインドから取り寄せたという高価そうな紬糸で編みこまれた絨毯が敷き詰められており、天井中央にはトルコのドームのように半球状に削り取られた箇所がある。そこには水晶とその他の輝石で作られたとかいう豪華すぎるシャンデリアが一つ吊り下がっていた。 足元にはこれまた手触りのよさそうなビロードの真紅の絨毯が敷き詰められ、その上にはロココ調を思わせる、まさにごてごてしい金細工で装飾されたテーブルやソファが鎮座していた。六方ガラス張りの腰の高さほどのタワーケースの中にはグラスやら奇妙な形をした像やら、象牙のパイプなどが入れられていた。コレは観賞用らしい。 扉を入ってすぐに目に付いたそれらにこわごわとしながらも、ローズはその左右にあるものを見てぎゃっと悲鳴をあげた。 「う、う・・・・甲冑、が」 何故あるのか、などという問いは愚問である。 一言、趣味で済まされそうなそれをローズは凝視した。 「それは十字軍遠征の折に使われていた甲冑を再現したものです。流石に現存しているものはほとんど博物館にとられてしまいましてね。ああ、でもその剣だけは本物ですよ」 にっこりと笑ったまま解説する只者じゃない青年にぞわりとしたものを感じながら、ローズは触れようとしていた剣の鞘から手を離した。 よく磨き上げられているそれには自分の顔が映っている。 近づけたり遠くしてみたりして自分の顔の変化を楽しんでいたローズは、ふと気になって後ろを振り返った。 ここから見えるのは、ソファとテーブル、そしてその奥く、まさに大きな窓ガラスの前にある貴族の机のようなものだ。執務室によく置いてありそうなそれを見て、ローズは制止した。音もなく椅子がこちらを向いた。というより、そこに座っていた人物が椅子を回したのだ。 鋭い目つきはまるで鷹のよう。額に走る大きな傷跡を、ローズは見た。しわで隠れているが、それでもよく知っている。それを。 「久しぶりだな。ローズ」 しわがれた声で老人は呼びかけた。 一歩静かに前に踏み出したローズは何か言うべき言葉があるはずなのに、何も言い出せない自分がもどかしかった。ただじっとそれを見据えるような格好になったローズを、ついて来た、というより案内したエヴァンスが面白そうに見やる。遅れて室に入ってきたエミリアもそれを察知して、口の端をあげた。 「同じ眼だな。ローズ。何もかわっとらん。あの時のままだ、お前は」 ふっと老人は口に笑みをつくった。 「あの・・・・。私、どうしてここに連れて来られたんでしょうか?あなたがそれを命じたのなら、今すぐ家に帰してもらいたいのです、が」 老人はしばらくそれに耳を傾けることにした。 「いったい何がなんだか・・・・。私は この先の言葉は頭の上に描き出されている。けれどその言葉よりも、もっと知りたいことがあるはずだ。それを知らなければならない、けれどそれを知るのはとても怖い。なぜなら知ったが最後、もうもとの生活には戻れない。そんな気がしたからだ。 「何がなんだか、本当にわからないんです。ここへきたのも。何故だか、ここを知っているような気がするのも。私を知っているという、私の記憶について何かを知っている彼らのことも。けれど、その記憶は私には無いんです・・・・。私はただ、私だとしか・・・・・。あなた方は私のなんですか?私の何を知っているというのですか?私は、いったい、なんですか?」 おかしいと思った。車に轢かれて完全に無事な人間なんていやしない。それにあれだけのスピードを出して無事だったこと事態がありえない。ならば自分ななんなのか。自分は何者なのか。それは、人間なのかそうではないのか。その疑問が、今、頭をぐるぐると渦巻く。 老人は口を歪めた。 「その問いに繋がるものを、答を、わしが持っていると思うのか?」
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