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仲間 大きな笑い声を上げて、老人が笑った。そして机の上で指を組んで、扉の向こうにあるものに視線を投げかける。エミリアとエヴァンスはバツが悪そうに顔をしかめて、扉に気配を綺麗に消して近寄る。がたがたと扉の向こうで音がした。 一気に扉を撃ちに引き抜けば、そこには団子状態になった三人がいた。 「フィリップ」 「Kがよ。どうしても信じらんねぇって駄々こねるからよぉ」 「はあ? 煩いクソジジイ。誰がそんなこと言った!! お前だっておしとやかなローズの面の皮はいでやろうて息巻いてたじゃないか」 「二人とも、やめて・・・・」 どうやら連れて来られ巻き込まれただけらしいカナリアがおろおろと二人をたしなめた。 けれど優しいカナリアの言葉に二人が耳を貸すことは無い。 「K」 「なんだよエヴァ!このオヤジの肩を持つってのか?」 「フィリップ、あなたもう大人なんですから・・・・もう少し子供に対して優しく接したらどうですか」 呆れたようにいえば、ますます腹が立ったというように顔を真っ赤にして、Kが立ち上がった。そしてその怒りの矛先は、呆然とそこに突っ立っている同じ瞳の女に向けられた。 びしりと指差して怒鳴る。 「お前なんか認めない!! 記憶が戻ってないだって? はっ、笑わせる。お前は違う。俺たちが探していたローズなんかじゃない!」 「K!!」 フィリップの脇を通り抜け、Kはまたどこかに行ってしまった。 その後姿を見てカナリアが息をつく。 「何で気がつかなかったのかしら。ローズはローズよ。紛れも無く、ローズだわ。だって」 見えていないはずなのに、澄んだカナリアのクリアブルー瞳は真っ直ぐにローズを捉えていた。そして形のいい唇が口ごもると、その隣で豪快な笑い声を上げながらフィリップが言った。 「しかたねぇなぁ。あいつは」 トロイ、鈍いといわれ続けている自分でさえも気がついたのに。 あの男とならんでローズ大好きを豪語しているような少年はそれすらも気付かなかったのだろう。あまりのショックに。忘れ去られたことの、悲しさに。 「どういうこと?」 いぶかしんで小首を傾げたローズがフィリップに尋ねた。と、彼は口を覆い今にも噴出しそうな顔をして顔を真っ赤にさせた。そしてやはりこらえきれずに爆音のような笑い声を部屋中に木霊させた。 「あははっははははははっははははっはははっははは!! やめてくれ!! もぉう、やめてくれぇ!! もう、笑わせないでくれー」 ひいひいと痙攣をしながら、ちらっと右目でローズを見てその場に転がり込んで笑い続ける。 流石にいい気分ではなくぴくりと左の頬を痙攣させたローズは、思い切りそれの腹をなじってやりたい気持ちで一杯だった。 流石にこれはまずいとようやく気がついた様子のエミリアが、すかさず助け舟を出す。 「レディ・ローズ。あなた、先ほどわたくしたちがグランド・ロウの名前をお伝えする前に、彼の名前を言いましたわね?」 「あ?」 そういえば、彼らからは今から合う人物について何も聞かされていない。ただ、会って欲しいということで引き合わされたのだ。エミリアとエヴァンスはその人物の話を一度も漏らさなかったし、フィリップやカナリヤももちろん何も言っていない。最初にいなくなったKという少年はもう論外だ。 では何故自分はこの老人の名前を知っていたのだろう。 「それは、あなたが知るべきだからですわ。レディー・ローズ。記憶は知るべき時に開花される。無理やり開かせたとしても、綻びかけた花のようにだめになってしまう。私達は気長に待つつもりでしたよ」 待つつもりだった。 では、その続きは? 「もちろん今もそのつもりですわ。記憶を急速に呼び戻すような技術はこの現代には存在しませんし、過去の記録にもありません。わたくしの知識の中にも、ここにいる誰の知識の中にも存在しません。ですから、記憶はあなた自身が必要なものを必要な分だけ思い出せるようにと祈るだけです。つまり、わたくし達は誰一人としてあなたの記憶を呼び戻すことは出来ないということです。 「記憶は感情。真実は理性。ジグソーパズルの欠片一つ一つにこめられたものが感情だとするのなら、そこに映し出された全体像、つまり今までのあなたを形成してきたもの、第三者の目から見た自己、はつまり」 エミリアが切った言葉をエヴァンスが繋ぐ。 「実像」 そして老人が思い口を開いた。 「The rose by any other name would smell as sweet. Rose?」 薔薇はどんな名で呼んでもかぐわしい。 吹雪が窓ガラスに叩きつけられた。 引き返すことが出来ない雪山に、今度こそ本当にローズは遭難してしまったのだ。
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