歯車(F A T E)




十九時四十三分。ニューヨーク市街地。

夜道を車が走る。無言で押し黙ったまま車に乗っているローズを、横に座っていたカナリアが見た。屋敷で聞かされた真実に彼女自身がまだ戸惑っているのだろう。けれどかける言葉が見つからず、カナリアは押し黙る。

夜、降ると思っていた雪はすっかりと静かで、ほとんど人気の無い夜の道を走るのは意外と気分が晴れる。警察の服装をしたエヴァンスが隣のエミリアを盗み見た。エミリアは髪を一つにまとめ、同じような服装をしている。

「裏にもう手はまわしてありますわ。警察の手柄にして下さってかまわないと。・・・・・切り裂きジャックについては手ごろな人間をあててある、とグランド・ロウは言っていましたわ。何か他に質問でも?エヴァ?」

「いいえ、姉さん。それにしても随分と静かな夜ですね」

 別に沈黙がいやだからどうでもいい話題を提供したのではない。本当に、そう、思ったから言ったに過ぎない。

 その意味を察してエミリアは微笑した。

 ニューヨーク市街地を走っていた車はゆっくりとセントラル方面へと移行していく。そして程なくして、ローズの自宅の前に到着した。

「レディ・ローズ。あなたの強い希望と、グランド・ロウの指示であなたは一度自宅に帰します。けれど忘れないで、真実を知ってしまった以上。あなたはどちらにしろわたくし達に協力しなければならないと言うことを」

 真実を知らされたあと、押し黙ったままのローズに声をかけながら、エミリアは車を降りた。そしてローズが乗っている側の扉を開けると、手を差し出す。その手を取ってローズがエミリアを睨みつけた。

「選択肢が一つしかないですって? そんなの、卑怯だわ。始めからこうなることを知っていて、全部利用したんじゃない」

噛み付くほどの純粋さがエミリアはうらやましかった。

 けれどそれを真に受けるほど若くは無い。

「ええ。そうですわ。その通りです。おっしゃるとおりですわ、レディ・ローズ。あなたに他の選択肢は無い。あなたは戦わなければならない。それが宿命だから」

「そんなの!! ・・・・詭弁だわ。宿命ですって? そんなの誰が決めたというの?」

 エミリアの手を跳ね除けて、ローズはステップを上がった。

 エミリアはその問いの答を知っていた。けれど何もいえない。ただ押し黙ってローズの後について扉に手を回すだけ。

「あなたは、私のことなんてどうでもいいと思ってるんでしょう!? 役に立たないただの小娘を良いように利用して、自分たちのために、運命とか何とか言って事実を捻じ曲げてこじつけているだけじゃない!!」

ぱん。

「姉さん!!」

 ローズの頬をエミリアの手がはたいた。すぐさま赤くなる頬を、ローズは押さえながら彼女を睨みつけた。

「わたくしだって・・・わたくしだって、そんなのわかっていますわ。けれど、ローズ!! あなたがそれを言うことは許されない。あなたは、そんなことを言う資格は無い。他ならぬあなたが!! ・・・・・・・それを」

「エミリア姉さん!!」

慌てて車から飛び降りたエヴァンスが後ろからエミリアを抱え込んだ。

 カトリーナも不安げにこちらを見上げている。

「・・・・・・」

「レディ・ローズ。あなたは記憶が戻っていない。真実を知ってもそれを拒絶し、甘い虚像に引き摺られている。けれど運命はあなたをその場から引き摺りおろすわ。これは、希望ではない。そうなると、わたくしは感じている。それが、真実だから。そして運命、いえ、宿命だから」

「・・・・・・・・・・」

「あなたが否定しようと拒絶しようと真実は変わらない。あなたがしてきたことも、これからしていかなくてはならないことも。    大丈夫よ、エヴァ。もう、大丈夫。だから手を離してちょうだい。・・・・・・・手を上げたことは謝ります。レディ・ローズ。だけれど、それだけは知っていて欲しいの」

ふっと目を伏せて、エミリアはローズの頬に手を当てた。またぶたれると思ったローズは目をぎゅっと瞑った。

 彼女の体を抱きしめて、エミリアは小さくごめんなさい、といった。

「姉はただ苛立っていただけなんです。許して差し上げてください」

エミリアから手を離したエヴァンスが嘆息交じりにそう言った。

 どうすることも出来ずに、ローズは目を伏せただけだった。

 目を伏せたローズは、奇妙な違和感がしてハッと顔を上げた。

「・・・・」

「どうしたのですか? レディ・ローズ」






    

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