歯車(F A T E)




 そんなはず無いと呟く自分に向かって、エヴァンスが笑ってこういった。

「実演してみましょう」

にっこり笑って、彼は腰のホルスターから綺麗な光沢を放つ銀の銃を取り出してこの上なく極上に微笑んだ。

「この中では一番痛覚が鈍いので幸いです」

にっこり笑ったまま、彼がカチリと撃鉄をあげ、ローズが止める声を無視してそのまま引き金を引いた。赤い鮮血が飛び散り、絨毯を汚した。彼はその場に倒れこみ、ローズは悲鳴をあげた。

「ここでしないでってあれほど言ったのに」

恨めしそうにカナリアがぽつりと声を零した。

 棒切れのようにその場でウゴカナイでいる血まみれのそれを見て、ローズは何故周囲がこんなにも冷静なのか、わからなかった。皮膚は確かに粟立っているのに、わりあい自分が冷静にそれを見ているということにも驚いた。

 エミリアはエヴァンス(死体)の傍まで寄って、ローズを見つめて薄く微笑んだ。凄みのある美人に微笑まれても、冷えた心臓はなかなか温まらない。

「よく見てください」

どちらが喋ったのか。

 エミリアは妖艶に微笑み、足元で再生を始める弟を見た。

 穿たれ銃弾によって貫通した皮膚組織が少しずつうちから収縮し、盛り上がっている。肉がうちから血を吐き出し、埋まっていく。そしてあっという間にそれは塞がれた。

 近くで足音がして、カナリアがエヴァンスに近寄って耳元で大きく怒鳴った。

「ここでしないで下さいって、ずっと前から言っていたでしょう!? 全く何を考えているの」

 カナリアはエヴァンスの胸倉をつかんでぐらぐらと揺さぶり始めた。

 どう見ても死人に八つ当たりをしているようにしか見えない。

 けれどローズの目は確かに彼の指先がぴくりと動いたのを見ていたし、ゆっくりとひとりでに身体が立ち上がったのも見ていた。血まみれの顔は相変わらず静止したままだったけれど、それもややあって動き出す。

 まずはじめに唇、そして眼が動き出し、コキ、コキと首を左右に倒した。

 怖気が走るというものではない、気を失わなかったので精一杯だ。

 やがてはゆっくりと歩き出して、血まみれの顔を真っ直ぐにローズに向けた。

「ご覧の通りです」

にっこりと笑った彼は、血まみれの手をローズに向けその手を握りこんだ。

「う、撃ち所が悪くて死ななかったとか」

「御冗談を。普通の人間なら頭を撃たれれば誰でも即死、ですわよ」

「ええと実は当たっていなくて、フリだったとか」

「じゃあ血は?」

「ええとトマト缶とかを隠し持っていて、ぶちまけたから匂いがつくからってカナリアさんが怒った・・・」

「トマト缶なんて持ってませんよ」

「カトリーナが怒った理由は当たらずとも遠からじってところですけれど」

「じゃあ、何で?」

やはり納得できない、理解できないという呈でローズは思い切って聞いてみた。

 エヴァンスとエミリアは顔を見合わせて肩を組んだ。多少ちぐはぐな気がするのはエヴァンスがエミリアより背が高いためである。

死なないから

「嘘ですよね?」

「だから実演して見せましたけど。今度は姉さんがやりますか?」

「いやですわ。髪と服が汚れるから」

「死なないっていうことは、ええとその、幽霊ですか?」

「幽霊だったら銃も意味無いでしょう」






    

home