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歯車 「じゃあこれは夢ですか」 「夢ならほら」 ぐいにとばかりにエミリアの指がローズの頬をつかんだ。 「い、いひゃい」 「痛いなら夢じゃありませんわ。残念ながら、これは、現実です」 「え、でも死んでない」 「ですから、死なないんです」 ふーやれやれとエヴァンスは銃を手にとった。それを今度は自分の胸に当て、引き金を引こうとする。流石にそれはいけないだろうとぎょっとした様子のローズはあわててその手を押さえた。 ローズの手が引き金に伸び、ガツンと一発大きな音を立てた。 ばたり、と今度は背中から床の上に落ちた青年を見て、ローズは戦慄した。 「あーあ。やりましたわね・・・・」 これであなたも立派な人殺し。 「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ」 叫び声はローズのものでもエミリアのものでもなかった。 いつの間にかお湯の入った桶を持って現れたカナリアだった。 ちなみにフィリップは近くのソファで転がっていた。 「染みが、染みがぁ。どいてください!! 邪魔よ、邪魔! 染みが広がる前に何とか・・・血痕は大変なんですからね!! エミリアも見ていたなら止めてください!!」 わーんと盛大に泣きながら、本当に見えていないのか、カナリアがエヴァンスの身体を転がして脇に置き、転々と飛び散った染みやら何やらの上に真っ白な布をかけていく。布は次第に鮮血に染まっていった。あれは、全くトマトの色ではない。潰したからわかるが、あれはトマトの色ではない。 では、なに? 「今回は私じゃないわ。レディ・ローズがやったのよ」 銃を手に持ったまま硬直しているローズを、カトリーナの眼が捉えた。見えていないとは思えないほど適格に。 「ローズ!! あれだけやめてくださいといったでしょう!! もう一度言います。面白がって不死者を殺すのはやめてください!! 後始末が大変なんですよ? それにいつもいつもエヴァンスにばかり八つ当たりをして、この子がこんなに痛みに鈍感になったのは絶対にあなたのせいですからねっ!」 「う・・・・・・え・・・・・・・・あ」 「まあ、そういうこともありましたが。全てがすべて本当ではありませんし。僕が勝負に負けてたまたま心臓を打ちぬかれたことがあったことが多かっただけですから・・・・」 むくり、とそれは動き出した。 「いやあ。今度こそ本当に死ねると思ったのですが、無駄だったみたいですねー。残念、残念」 服に空いた風穴を見つめて、あまり残念でもなさそうな顔で彼は飄々とそういった。エミリアはそんな調子の弟を見て、いやそうに顔をしかめる。 「そんな顔しないで下さい。姉さん」 「う、うごい、た」 「あれ? やっぱりまだ信じられません? 何ならもう一度・・・・」 ゆっくりとこちらに近づくエヴァンスの顔は間違いなく楽しそうな子供そのものだ。 げっと砂を吐くような顔をしたのはエミリアのほうだった。きらりとカナリアの瞳が光る。彼女は手に持っていた手桶をぶんと振り回しエヴァンスの後頭部にぶち当てた。 お湯と、砕かれた桶があちこちに散乱したところまではまだよかったのだが。 ガウン。 もう一発、銃声が聞えた。 「エヴァ!!」 慌てて駆け寄るエミリア。その下にはローズがいる。手には銃を持っていたから、おそらく彼女の持っていた銃が暴発したのかもしれない。驚いて引き金を引いてしまった、ということも考えられる。 「い・・・・・てて。あ、姉さん」 「あ、姉さん、じゃありません!! あれ? 死んでない」 「死ぬわけがないでしょう? 銃に撃たれたのは、誰? ふい、と同じ顔が背後のカナリアに向けられる。 空になった手をぶらぶらとさせてカナリアは首を振った。 嫌な予感がして、二人はエヴァの足元で伸びている少女に目をやった。 「よっしゃぁ!! 今なら積年の恨み、仕返しできるぜ!!」 にやり、そう笑いながらこちらに突っ込んでくる巨体が一つ。 「フィリップ。ふざけていると後で大変なことになるわ」 昏い顔で、ふふふと笑みを浮かべてカナリアが笑った。珍しく邪悪な笑みで、一同が戦慄する。硬直したフィリップを押しのけるようにカナリアは進み出て、それからエヴァンスが退いた下のローズを見た。
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