歯車(F A T E)



 同じくそれを見たクロウが、憎々しげに顔を歪める。

「貴様」

「貴様、ね。五年前、まんまと私からローズを奪い取られたくせに。君にそんなことを言う資格は、無い」

空気が歪むほどの殺気、とはこのことを言うのだろうか。

 びりびりとした痛みを感じながら、エミリアはローズが屈みこんでそれを拾い上げるのを見た。

 ローズはそれが指輪だということに気付く。綺麗な銀の指輪で、薔薇の形をしたピンク色のダイヤモンドが光り輝いている。これ、どこかで。

 急激な痛みが、頭を襲った。

「貴様!! ローズに何をした? 俺の手から奪って、実験体として使って、記憶を奪って!!」

「君の言ったとおりだよ、アウレスター。五年前、英国で彼女をようやく君の手から取り戻して、少々実験に協力してもらったんだ。そのおかげで、先ほどの、ほら、君たちも見ただろう。あれが完成したんだけれどね。記憶を奪ったところまではよかったんだ。大成功だった。後は私だけを見るように記憶をすり替えれば、それだけで終わりだった」

けれど、とそれはローズを見た。

「けれど寸前で逃げ出されてね。なんといったかな、君たちの仲間、とか言う。ヘレナと、ケルゼン、あれが邪魔をしてね。逃がしてしまったのだよ。もちろん、報復に、殺しましたけどね」

「ヘレナと、ケルゼンを!?」

同じ仲間、不死者である彼らをいったいどうやって殺せたというのだろうか。

「君達の研究分野は面白いですね、エミリア・シーンズ・フォード。私達はそれを逆に応用し、細胞が急速に減少する研究を続けました。まあ、失敗ばかりが多くてね。唯一成功した二つだけの銃弾は彼らに使ってしまいましたから、また振り出し、一からですが。いや、研究所自体が消失してしまったので、データは無し。本当に、全く、ふりだしですよ」

それすらも喜ばしいことのように受け止め、アルバート伯は笑った。濁った笑いだ。

「けれど、完成体のデータは揃っていたので、あちらだけはこうして使わせてもらっているのですよ。いい出来でしょう?これをみると百年前のあれが、子供の玩具のように感じられる」

「う・・・・うう・・・・うぁ、っあ」

頭が、割れるように痛い。

 うずくまったローズは必死で目をこじ開け、指輪をつかむ手を握り締める。握り締めて、小さな痛みが身体に走り、そしてそれを見た。

 アルバート伯が引き摺っていた、それを。

 体中が一度心臓のように脈打った。

「いい道具が見つかったんです。ほら、これです。既に第三段階まで変異しているというのに、人の姿を保ったままです。意識は正常。狂気の片鱗もありません。成功作ですよ。もっとも、どうなるかわかりませんが、ね」

 ぐいと腕を引き上げてそれをかざす。

「うううう」

唸るような声がそれの口から漏れ、口の端から唾液が滴り落ちている。服は無惨に切り裂かれ、体のあちらこちらから切り裂かれた赤い肉が見え隠れする。けれど、血は一滴も流れていなかった。

血は、一滴も。

「・・・・・クランス」

 あの髪の色、顔の形、くぐもった声だが、あれは確かにクランス。

 なんて、ひどいとエミリアが口を覆った。

「姉さん!!」

誰かがこちらに走ってくる音がする。ばたばたと数人の足だ。

「エリー!! ローズ!! 根暗ヤロウ!! どこにいやがんだ!!」

「うっせえオヤジ!! 黙って探せ!」

どかどかと大声と足音を立てながら、その気配が間違いなくこちらに向かってくる。エミリアは銃を抜き、それに狙いを定めた。もとよりクロウは撃つつもりで銃を構え続けていた。

「ローズ!!」

 最初に駆け込んできたのはエミリアの弟エヴァンスだ。エヴァンスの後ろから、K、カナリアを抱えたフィリップが走ってくる。

「げっ。アイザック!!」

「何でここに」

「フィリップ・・・・・まさか、アイザックが?」

「姉さん、無事ですか?」

 アイザックと呼ばれた紳士は顔を歪め、そしてくつりと微笑んだ。

「役者はどうやら揃ったようですね。今はどうやら分が悪そうだ・・・・・。ローズあなた一人くらい捕らえるのはたやすいが・・・・。四日後、ニューヨーク港でお会いしましょう。ローズ、あなたにぴったりの派手な舞台をご用意してお待ち申し上げます」






    

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