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歯車 アルバート伯は呻き声を上げているクランスの身体を抱えると闇に溶けるようにその場から消えていってしまった。今まさに虚空へ銃口を向け直したKは舌打ちをしてその場に倒れているローズに駆け寄った。 「ローズ!」 意識が無いようで、びっしりと額に脂汗が浮かんでいる。身体はとても冷たく、白い喉に髪の毛が張り付いている。その手から小さな銀の金属が転がり落ちた。握り締めすぎたのか、掌には何かで穿ったようなあとが残っている。けれどそれはすぐさま元通りに消えてなくなってしまう。 不死者。それをみて、Kはようやく息を吐いた。 「K。ローズを渡せ」 上から睨みつける。そして大人気なく威圧して立ち尽くすクロウに、Kは牙をむいた。 「なんだよ! 前回も、今回もローズを助けられなかったくせに!! 勝手なことを言うな!」 その隣で、ひぇえと情け無い声をあげたのはフィリップである。口に手を当てて、わなわなと震えている。内股なのがまた奇妙だ。 「K・・・・」 「いやだ!! いくらクロウの頼みだって言ってもダメだ!! クロウはいつもずるいよ、いつでもローズを独り占めにしてさ。俺だって、ローズが心配なんだ」 「まあ、そこでいがみ合うのはかまいませんが、警察が騒ぎをかぎつけました。生き残った誰かが、通報したのかもしれません。このままここにいたらこの惨殺事件の犯人にされてしまいますよ。言っときますけど、僕は当然御免ですから」 そして睨み合っているクロウとKをちらりと見る。ローズはKにかろうじで抱えられている。エミリアは息を吐いて、床に落ちた指輪を拾い上げるとそれをクロウに手渡した。そしてKに向けて言葉をかけた。 「K。体力的にあなたでは無理ですわ。ここは譲歩してクロウ・リーに任せたほうがローズのためにもなります。それでもいやだと駄々をこねるなら、フィリップにローズを担がせます」 クロウとKの視線がフィリップに向けられた。壮絶な二つの視線はまさに地獄のよう。というか地獄そのものだ。もしKが断ってフィリップが担いでいくようになった場合、クロウの後の仕返しがとても怖い。フィリップは両手を突き出してぶんぶんと振った。拒否、である。 「警察が中に入り込んできます」 カナリアがぽつりと零す。それと同時に扉が開き、情けない悲鳴と怒号が飛び始める。 「玄関前にあった自動車は、犯人のものか?」 「はっ。おそらく。証拠品として抑えてあります。犯人が戻って乗らないとも限りませんので、部下に周囲を固めるよう言ってあります」 「よし。では犯人はまだこの中だな」 「それにしてもひどい有様だ。切り裂きジャックめ、いったいなんの恨みあがってここまでひどいことを」 がやがやと聞こえ始める音や声に、各々が顔を見合わせる。 Kはしぶしぶクロウにローズを預け、クロウは気を失ったままのローズを抱えて走り出した。フィリップはカナリアを抱き上げ、エミリアが先導しエヴァンスがその後を走る。そうして奇妙な七人は窓ガラスを割って外に飛び出した。 窓下にいたらしい驚いた見知らぬ人を踏みつけ、路地にかくしていた車に無理やりに乗り込むと夜の闇の中に消えていったのである。
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