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記憶 穿たれた。抉られて、零れた血が杯に入れられていく。絶叫、悲鳴、もう、何でもいい。この地獄が終わりさえすればいい。赤い血が杯にたまりきると、その時にはもう、傷はふさがっている。ふさがるとまた新しく背中を抉られ、そこから鮮血が採取される。木の管が胴の管を通り、胸に突き刺さった。思わず口から血を吐き出す。心臓の鼓動にあわせて気を失うほどの激痛が身体に走る。ひゅうひゅうと喉が鳴り、白目をむく。 ゴポリ、ゴポリ、ゴポリ、それはまるで何かのリズムを刻むように底に流れ注ぎ込まれている。管が抜かれ、麻痺することも出来ずに新たな痛みが生じる。 それを、何万回、何千回、繰り返しただろうか。 暗い空間で狂った男の笑い声と、狂った女の嬌声が木霊する。赤い炎の上に置かれた釜の中には一人の人間の体から採取したとは思えないほどの命の液がある。ぐらぐらと比に熱され、煮詰められたそれは次第に凝固し、一つの大きな塊となっていく。 塊は光っていた。朝露にぬれた真っ赤な薔薇のように。 それを取り上げた男が、こちらを見た。 もうやめて欲しい、と何度懇願しても男は決してやめなかった。 そして、なんどもその石を作るために私を殺したのだ。 男が死んだのは、石を同じように体内に取り込まされた男だった。男に名はなかった。ただ、死んだ男が、その仲間が同じように彼を殺していたとき呼んだ名が彼の名になった。 『 その名前は好きではないと男はいった。 だから、名前をくれてやった。お前を殺した男の名前だと、私は言った。けれど彼はそれも気に入らないようで、近くにいた男に剣を向け、お前の息子の名前はなんだ、と問うた。その名前を俺にくれ、と。 もう一人男がいた。彼は、私を何度も殺した男の仲間だった。男は私を逃がそうとして捕まり、なんども殺されることになった。繰り返し殺される彼を、私はいつも横目で捉えていた。彼は名を、リー、といった。私はそれしか呼ばなかった。 近くで肉を切り裂くような音がした。最初の男は生首を火にくべた。そしてぶつぶつと嬉しそうに繰り返した。 『アイザック。アイザック。それが、俺の、名か』 くつくつと狂ったように笑う彼に、私は恐怖を始めて感じた。この時止めていればよかったと何度も後悔した。 それから百年経った。世界はすっかり変わっていた。私は老いることもなく生き続けている。私がかつて彼の元で研究していたものの通り、私は生き続けている。通り過ぎる人の合間をすり抜け、生き続けている。研究していたものを私と同様に体内に埋め込まれた二人の男も、同じように生きていた。 ある日、アイザックが言った。『俺たちの手で、人間に復讐しよう、と』。馬鹿なことを言う、と思った。だって、ほかならぬ自分も人間だからだ。そういうとアイザックは嗤った。『人間は百年経っても生き続けるのか?どんな傷でも一瞬で癒してしまうのか?それを人間というのか?』。私はその問いに答える答を持っていなかった。同じように、リーもずっと押し黙ったままだった。 私はただあの忌々しい土地から開放されたことが嬉しかった。外に出て思い切り空気を吸えるのが嬉しかった。ただ単純に、それが嬉しかったんだ。
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