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記憶 廊下に出たクロウは扉横の壁に寄りかかっているエヴァンスを見た。ずっと先程からそうしている。姿は百三十年余り経っても変わっていない。知識だけはやたらとついたようだが、まだまだだ。腕を組んだままエヴァンスはクロウにこう尋ねた。 「あの時、あの場所で、僕達は様々な選択肢がある中から今を選びました。彼女はいつでも僕達に問いました。それでいいのか。と。あなたはそれについて何も反対しなかった・・・・僕はずっと疑問に思っていたんです。それは、何故ですか?」 明るい緑色の瞳を真っ直ぐにクロウに向ける。 クロウは紫色の瞳を伏せた。 「俺は・・・・・。ローズが望めばそれでいいと思っている。お前たちを生かすのも、殺すのも、俺にはあまり興味が無い。けれど、ローズがそう望んだ。そしてお前たちがそれを選んだ。だから、俺に口を出す権利は無い」 「なら、何故あなたはそこにいるのですか? ローズの隣に。あなた自身がそれを選んだのですか? 僕らはあなた方がどういう経緯で今の状態にあるのかを知らない。それをわざわざ聞く必要も無いと思っています。・・・・・生きることを諦めても、僕らの体は朽ちはしない。死の訪れない身体を、その時まで僕達は引き摺って歩かなければならない。その責任がご自分に無いと言い切れますか?」 「・・・・・・・・・」 「百三十年以上、こうして生きて、生き続けてきました。すれ違っていく人々の緩慢な死は、僕らには永遠に訪れない。いえ、いつかは訪れるのかもしれない。けれど、神経をすり減らし、それをもっとも必要としている彼女には永遠に訪れないかもしれない。彼女が、かつての師匠と同じように、そしてあなたと同じように体内に石を持っている限り。・・・・いつまでそれを放っておくつもりですか?この五年間でいろいろ考えました。彼女にはたとえその必要があってもゆっくりと穏やかに過ごす時間が必要なのではないか、と。この百年間は特に異常すぎます。どこに行っても、何をしても」 目の前の青二才が何を言わんとしているのか、クロウにはきちんとわかっていた。けれども、それを口にしなかったのは、彼がそれを知らないからだ。 「僕は思います。彼女はここにくるべきではなかった。誰とも再会せず、安穏とした時を過ごしていればよかった。 「手ぬるいですわ。エヴァ」 凛とした声が空気を振動させる。現れたのは極上の美女。涼やかな緑色の瞳を睨みつけるようにクロウに注ぎ続けている。深紅の唇がよく似合う女性、エミリアは形のいい唇を開いた。 「たとえ、もし彼女が生きることを望んでいなくても、安穏とした時を過ごしたいと願っても、事象はそれを許してはくれない。少なからず五年前のようなことになるのがオチだわ。いいえ、もっとひどいかもしれない。あいつの生み出した忌わしいもの、それが人を殺す。殺しつくして。何もなくなる。わたくし達のお父様のように」 だから許すことなど出来ない。百年をかけた復讐を、自分は望んだ。 だから生かして欲しいと不死者に懇願したのだ。 「そんなことにはさせない。あんな思いはもううんざりよ。そのためにローズが必要なら、私はクロウ・リーを何度殺してでも・・・・・。いいえ、不毛な話ね。あなたなら、ローズを連れてどこへでも逃れそうだけれど」 疲れたような笑みだ。 エミリアは髪の毛を指で弄びながら、小さく笑んだ。そしてとたんに真面目な顔になってクロウに向き直った。 「時間か」 「そうですわ。クロウ・リー。エヴァ。ローズ抜きで、出来るところまでやりましょう」 にこっとエミリアは微笑んだ。
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