記憶(T R U T H)



 少し肌寒い。むくりと起き上がったカナリアは、眠ったままの少女を見た。先程、Kを残してみんな行ってしまった。時間だった。時間だったけれど相変わらずこの二日ローズは寝たままだった。昏々と眠ったまま。

 幸いだったのは彼女が錯乱して暴れることがなかったということだ。小さな涙を目尻から零れさせることはあったけれど、それ以外は何事もなくずっと眠っている。

 カナリアは近くにあるだろう本棚の柱に手をかけて立ち上がった。途端にバランスを崩して、思い切り本棚に手を突っ込んでしまった。弾みでいくつかの本が床の上に落ち、そのうちの何枚か古い本のページが飛んだ。

 何がどこにあるのか全くわからないから、仕方なくしゃがみ込んで手探りでそこいらに手を伸ばす。ローズが動いたような気配がなかったから、本はおそらくローズには当たっていない。だから四散したそれを元に戻すだけでよかった。けれど、それが難しい。

 永遠の命を得ることができてもこの目は治らなかった。火傷は綺麗に治ったのに、目だけはどうしても治らなかった。最初はこうしてよくドジをしたものだ。そのたびに、必ずフィリップやK、そしてローズが助けてくれた。ローズにどやされたリーも。しばらくして出会ったエミリアとエヴァンスは、何かと見えないことを理由にして自分に危ないことをさせなくなった。その心遣いが、とても嬉しかった。何かあったとき、一緒に行くことはできないから。足手まといになるから、自分はいつもKと一緒に残っていた。その間に何か役に立てないかと必死で誰も知らないことを勉強した。Kに本を読んでもらって、手探りで。掃除や食事の用意だけは誰よりも出来たけれど、それだけではまだ足りなかった。いつでも置いていかれることが悲しくて、いつも一人で泣いていた。

 ぽとり、と手の甲に雫が落ちた。

 ずるり、と背後で音がして何かが寝台から落ちた音がした。それがきっとローズであることは疑いようがなかったから、カナリアは慌てて涙をぬぐってそろそろとそれに手を伸ばした。その手が、熱い手につかまれた。

「・・・・・・う」

調子がまだ悪いらしい。

 早く寝かせないと。

「ローズ・・・・」

片手で額を覆ったローズの姿を見て、それがまるで自分のようだとカナリアは思った。何もできなくて、一人で泣いていた、自分。その後、どうしたのだっけ。

「さあ、ローズ。寝台に戻って、もう少し眠りましょう」

つかまれた手をそのままに立ち上がらせようとすれば、今度は反対の手を捕まれた。

「!?」

「・・・・・・っ」

「大丈夫よ、ローズ。一人じゃないわ。私がここにいるから、もう少しゆっくり休んでいていいのよ」

落ち着かせるようにそういえば。

「・・・た・・・・・、カリー、あれから、どのくらい?」

はっきりと、声が聞こえた。

 誰かの視線がこちらに向けられる。

「あれ? また、泣いていたの・・・・カリー。どうして?」

彼女は、なんといった?

「泣いていたんなら、深呼吸して・・・・」

立ち上がって、ローズは確かに笑った。

 少なくともエミリアにはそれがわかった。






    

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