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記憶 「ああ。頭痛い。たく、随分長いこと寝てたからなぁ」 枕の脇においてあった指輪を指に嵌めて、扉を押し開ける。 ぼさぼさの頭を手櫛で整えつつ、寝着一枚でふらふらと廊下に出たローズはばったりとそれに出くわした。きょとん、とそれがこちらを見上げている。 「桂蘭。何? その妙なものでも見たって顔は・・・・・」 Kは思いっきり顔をしかめた。そして本物かどうか確認するように、ローズの足元まで寄ると手を伸ばして腰まで長い不思議な色の髪を思い切り引っ張った。 「ぎゃあ!! 何するんだ、君は! 痛いじゃないか」 ぼけっとする桂蘭の頬をつまめばやはりはまだ子供、ぷにぷにですべすべだ。しかもこいつときたら永久にそうだから、むかつく。ついつい思い余って悪戯半分でつねりすぎた。ぽんと放した時は真っ赤になっている。まあ、じきに消えるだろう。 それでも理解できないというようにきょとんとしている。 「桂蘭。ケリをつけよう。あの馬鹿に仕返しだ。 過去のままの姿の彼女の笑顔を見て、桂蘭はそこではっとしたように目を見開いた。そしてすぐさま走り出す。 彼女は、彼女だ。記憶が戻ったの、なんて確かめる必要なんて無い。本当はずっと知っていた、彼女は、もとから彼女だって言うことを。 廊下を先走る桂蘭の小さな背を見て、ローズはにっこりと微笑んだ。 「わわ。エヴァンス!! まだここにいたのか!?」 廊下の先に消えて見えなくなっていたはずの桂蘭がころりとその場に転がった。そして現れたのは金髪の髪の双子の片割れ。心底驚いたように目を丸くしているのはもちろん桂蘭だが、ゆっくりとエヴァンスがこちらに振り向くと、彼もまた心底驚いたような顔をしている。 「レディ・ローズ」 起きたのか。 それでもまだ彼女には何も出来ない。記憶が戻らない限り。起きたとしてもそれは完全な覚醒ではないから。屋敷ならどこを歩いてもかまわないが、外に出ると駄々をこねられたら厄介だ。 「・・・・・」 けれど言うべき言葉が見つからなくてエヴァンスは口ごもった。 レディ・ローズは不機嫌そうに口をへの字に曲げると、こちらにつかつかと歩み寄った。そして、エヴァンスの胸倉をつかみあげた。 瞠目したエヴァンスは、それが彼女、では無いことに気付いた。 「ヴァン。何故ここにいる?君は・・・・・いや、わかってる。どうせあの根暗にここで私たちの護衛でもしていろといわれたんだろう。・・・リアは、どうせ一緒について行ったんだろうが」 嘆息してゆるゆると襟首から手を放したローズは顎に手を当てて考え込む。 渇いた口から声が漏れた。 「ローズ。ローズですか?」 エヴァンスはローズの肩に手をかけ前後に揺さぶった。がくがくと揺さぶられてローズの頭が前後する。 「や、め、ろ」 気持ち悪い。 ローズの手がエヴァンスの方に伸ばされ、その手が見事に首にかかった。ぐいぐいと締め上げれば、エヴァンスは手を放す。同時に手を離したローズはにやりと笑って、床に膝をついた青年を見下ろした。 「仕返しをする。君も着いて来い。それからあの根暗に説教をしてやる。私をこんなところに押し込めやがって・・・・。ああ、そうだ。桂蘭、カリー女を手伝ってやってくれ」 「は?」 「うっかり本棚に置いてあるものぶちまけたらしい。今頃苦労しているだろうから」 「うん・・・・わかった」 桂蘭は頷いて起き上がると、急いでそちらの方に走って行った。 ローズは呆然とこちらを見上げる青年を見下ろしながら、ふむ、と小さく頷いた。それから左手をそれの視線の先にかざした。 エヴァンスは必然的にそれを視界に捉えることとなる。左の中指に嵌っている指輪を見て確信した。彼女は、彼女なのだ、と。 「ヴァン。じいさんは? ここは本部だろう、じいさんはどこにいる?」 この後起こるであろう大量の厄介ごとに今から備えておくために、ローズはそちらに向かうつもりだった。町を破壊尽くすということは無いだろうが、一部損壊どころではすまない気がするのも真実である。 「グランド・ロウ、ですか」 「わしを呼んだか?」 鋭い鷹の目、桂蘭とカリーと一緒に廊下の端から歩いてきた老人がローズを見た。 ローズは嬉しそうに振り返り、仁王立ちした。 「やあ、じいさん。久しぶりだね」 ローズのその言葉にグランド・ロウは不機嫌な顔を僅かに緩めた。皺の刻まれた顔が彼の命の年輪だ。 その背後でそわそわとしているのは桂蘭だったが、じっと何かを待つように静止しているのはカリーだった。やっぱり、昔と全然変わって無い。ローズは視線を老人に戻した。 「見ない間に随分歳をくったな、じいさん」 「ふん。不死者のお前とは違うわ。で、どうする? 行くのか?」
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