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記憶 「行くよ。仕返ししてやる。五年分の、ね。一億・・・いや、一兆倍だ。口止めはよろしく。大量に金が動くことになるだろうけど、まあ迷惑両だと思って諦めて。それよりおでこの皺が増えたんじゃない? あのときの大きな傷が隠れるほどのになっているのは驚きだね。何歳だっけ?」 「下らんことを言っているなら」 「ああ、そうだ。思い出した。五十二になるはずだよね。私が拾ってからそれくらいは経つ。それにしても昔は桂蘭くらい可愛げがあったのに、本当に男の子ってかわいくないよねぇ。ヴァンがあの年齢で止まってくれてほんっっとうによかったよ」 いつもは相手を丸め込むのに長けているグランド・ロウを手玉に取るなんて。明らかに会話をリードしながらローズは背を流れている髪の毛を払った。 この髪、ローズ、よくもまあここまで伸ばしたものだ。半分は自分のせいだけど。 「ハサミ、でもナイフでもなんでもいいや。誰か持ってる?」 髪の束をつかんで、手を差し出すローズにエヴァンスがはっとしたように腰からナイフを一つ取り出した。そしてそれをローズの掌に乗せようとする。 「だめっ!! 切ったらダメ!! エヴァンス、それだけはあなたでも許さないわ。さっさとおしまいなさい! せっかく伸びたのよ、ローズの髪が。いつもいつも伸ばしてって言ってるのに勝手に、いつの間にか切っちゃって・・・・。ただでさえ女の子が少ないのに!! これ以上私の楽しみを奪わないでちょうだい!」 ナイフはあっけなく掌を滑り、絨毯の上に転がった。 ローズは顔を硬直させながらゆっくりとそちらを見た。 クリアブルーの目は燃えていた。 「いいこと? 毛先をそろえる以外は絶対に切ってはダメ。これは約束よ、約束! いい? いくらローズといえども私との約束を破ったらどうなるか、わかっているわよね?」 卵色のふわふわとした髪の女性は、ものすごい剣幕でこちらを睨みつけている。いつだって思うが、カリーと話している時は彼女が失明していると言う事実を忘れてしまう。 ローズはあきらめたように肩をすくめた。 その雰囲気を察知してカリーはほっと胸をなでおろした。ローズは約束を絶対に破らない。破ったのは五年前。あの男に彼女が連れ去られた時だけだ。くだらない嘘も、何も、彼女はつかない。気の聞いた冗談と、優しさがローズの持ち味だ。 「わかったよ・・・カリー」 うんざりと肩を落としたローズは髪から手を離した。 「そのかわり、一つに今日はくくる。邪魔になってどうしようもないよ、これじゃ。満足に動けもしないしさ。それから服。まさかカリー、戦場にドレスでいけって言うんじゃないよね? 発表会に行くんじゃない。戦争に行くんだ。こんなひらひらしたもの、ただの邪魔だよ。邪魔。グランド・ロウ。私の服は?」 「なっ」 「どうどう。落ち着いてください、カトリーナ」 反対側からなおも言い募ろうとしたカナリアを制して、エヴァンスは情け無い顔をした。全く、いつも、彼女のペースに乗せられてしまう。 「さっさと行かないとパーティが始まってしまう。主役がいないと、意味が無いだろう?招いたほうも招きがいが無いってものだ。面子を潰しては厄介だ」 「服はいつもの場所だ。お前の、銃もな」 「上出来」 歩き出すローズの後ろを追って桂蘭がついていく。 取り残された三人は嘆息して、その後姿を見送った。そして、ローズは一度だけ振り返るとにっこりと美しい笑顔で笑った。 「ロウ。君ね、そんなしかめっ面に合わないよ。童顔で困ってたのは今も昔も変わんないね。七十二だってのに五十二に見えるとはね」 エヴァンスはすかさず隣の老人の顔を見た。それはかなりサバ読みすぎじゃ・・・。 けれども老人はふんと鼻息荒くそっぽを向いただけだった。
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