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薔薇 見事にへしゃげ、後はもう土に埋めてやることしかできないほど見るも無残なトマトが、そこで息絶えていた。悲鳴を上げたのはローズのほうで、口をあんぐりとあけて、そのトマトの傍に走りよった。まるでトマトが我が子のようである。そしておもむろにしゃがみこむと、そっと大切そうにそのトマトのまだ無事な表面を撫でてやった。 「トマト がっくりと肩を落とす少女を見て、周囲の人は白い目でその車の持ち主である若い男を睨みつけた。男はあちこちに転がっている無事なトマトをかき集めに走った。 「トマトが・・・・トマトが」 お遣いの途中だったのだ、確か。夕方訪れるクランスとその友人のためにとっておきのトマトを買い求めにマーケットまでせっかく行ったのに。しかも侍女頭のエネンスと執事のアンバーをまんまとだまし、侍女のステラに手引きをさせてせっかくここまで来たって言うのに。 いったいどんな厄日だ。 ローズはトマトでつまっていたはずの紙袋を持ち上げた。するとの中にはいくつかのトマトが入っていた。けれどもそれはまるで何かによって爆破されたような、惨めな有様だった。はじけたトマトは、見るも無残でローズは目を覆った。 その途端紙袋が地面の上に落ち、赤い汁を袋の中で飛び散らせた。 そして、ゆうらりと顔に影を落としてローズは昏い笑みを浮かべた。くつりと喉が鳴る。 男は集めていた四つのトマトをその場に落とした。べっちゃりとそれがつぶれる。 「あのね。トマト代くらい弁償してよね。大事なトマトだったのよ? いい? 大切なトマトだったのよ? トマトお化けに取り憑かれたくなければ、大人しくトマト代を払ったほうが身のためよ〜」 ぞわりとするほど低い声でローズは脅した。脅した瞬間、いくらでも払います、むしろ払わせてくださいという様子で男は懐から財布を取り出した。押し付けるような形で札束をローズに握らせて、ポンコツに乗り込む。 それに視線を落として、ローズは顔をしかめた。 「こんなにいらないわよ・・・・」 ぶつくさ文句を言っている内に、男はアクセルを踏んであっという間にそこからいなくなってしまった。排気ガスがぼうと噴かれた。 取り残されたローズはとりあえず仕方ないと零れ落ちたトマトをいくつか無事なものを拾いながら、紙袋に収め、にたりと笑う。 まあ、いいわ。 そして再びるんたるんたと歩き出したのだった。
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