|
邂逅 「あれ? 酒場であった。・・・こんばんは。こんなところで何をしているんですか?」 にっこりと金髪の髪の男がこちらに声をかけた。 割れた窓ガラス、砕け散ったサイドミラー。ぼこぼこになった外装。哀れな車を馬車馬が如く扱っている。酷すぎる。バックミラーの一つは壊れ、かろうじでヘッドライトが着いているに過ぎない。 「知り合いなの?」 不審げに女が聞いた。 見れば奇妙な女だった。 女のくせに男物のシャツとベストを着ている。髪を後ろでひとくくりにし、まるで男装だ。ベストの上には皮のホルスターが下げられており、そこには左右一丁づつ拳銃が収められていた。 鳶色の瞳、赤毛でもなく、茶色でもない。むしろ闇に染まった深淵の赤に近い髪の毛が風に揺られてなびいた。 「酒場でちょっと・・・・・。どうしたんです? 身投げですか?」 「うわ。ちょっと縁起でもない。寒いでしょうが、今の時期。しかも水死体はぶくぶくになって醜いんだからね」 そういう問題ではない。 「たく、あのバカっ!! 二台に分けて行ったわね。おかげで車がこれしか残っていなかったじゃない!」 嘆息して、あーあと女がひとりごちた。 「まあまあ。K、どうしたんですか? 顔が真っ青ですよ」 「う・・・・はなじがげるな」 口を押さえた子供が、シートの奥に収まりじっとしている。顔は青い。 まさか誘拐では。 「ゆ・・・」 「誘拐じゃないわよ。言っておくけどね。ヴァン、行きましょ」 「わかりました。ああ、それから二つだけ忠告しておきます。危険ですから、早めに戻ったほうがいいですよ。それから、笑い上戸になるくらいならお酒は控えたほうがいいですよ」 そういうなりけたたましいエンジン音を立てながら車は去っていった。 「いったい」 唖然と口からくわえていた葉巻を落とした男。葉巻は足元で転がり海に落ちて、沈んでしまった。高い葉巻だっただけに、あとで彼はしっかりと後悔することになるが、今はそんな場合ではなかった。 酒場? 笑い上戸。確かに酒を飲むと笑い出すのは仕方が無いし、変なことを口走る、ということも知っていた。いや、それよりも重要なことを何かいっていなかったか。 「危ないから、早く帰れ?」 麻薬の密輸でもするというのだろうか。子供をつれて?人身売買か? いや、それよりも。あの娘の名前、なんと言っただろうか。 ロバート・ヨザックはコートの中をまさぐった。そのうちポケットからくしゃくしゃになった一枚の切抜きを取り出す。新聞の切抜きで、これは四日前のセンツァバーグ事件についての報道だ。
|
|||||||