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邂逅 〈切り裂きジャック 今度は実業家一家を惨殺〉 昨日、1月21日。マンハッタン、アッパーイーストサイド、セントラルパークに面する五番街のタウンハウスで惨殺凄惨な事件が起きた。犯行時刻は午後五時前後と推測される。一家は惨殺され一時は切り裂きジャックに連れ去られたと思われる令嬢も無惨な姿で発見された。顔には無数の切り傷、重度の火傷などで顔の判別が難しかった。しかし左手の結婚指輪をしていることと、茶色の髪の色から令嬢と断定。 当日結婚指輪を買い求めに市街地に訪れていたクランス伯は婚約者の姿が見えないことに不審を抱き、一度自宅へ。そして午後五時過ぎ令嬢宅へ赴いたクランス伯は犯人と遭遇したもよう。クランス伯も例外ではなく、他の被害者同様犯人の手にかかる。匿名情報により事件が発覚し、警察は現場へ。入り口に倒れていたクランス伯をすぐさま病院へ搬送。重度の外傷とのことだが命に別状はなく、様態も安定しているという。本日中に友人のアルバート伯が経営する医療機関への搬送が予定されている。以下は友人を見舞ったアルバート伯のインタビューである。 「友人であるクランス伯には心からのお悔やみを申し上げます。だが、彼の命が取りあえずは一命を取り留めたことを、私は神に感謝いたします。ご婚約者との婚礼を来月に控えて、さぞや無念だったことでしょう」。また殺された令嬢について聞かれると、彼は取材者にこう答えた。「レディ・ローズのことは本当に残念です。今日もクランス伯と結婚指輪を選びに向かっていたということですが、その途中に犯人の一味にかどわかされたようで。美しい鳶色の瞳がもう見れないことは、本当に残念なことです」。事件との関連性について、警察からの取調べを受けることになっているアルバート伯は最後にこのように述べている。 「友人を殺され悲しみにくれる私に、追い討ちをかけるようなことをするのが、このアメリカという社会らしい」。さらに今後の予定はと尋ねる記者に対して、怒りを露にしながら。「うんざりだよ。当分は母国に戻って事業に専念する」。写真は報道記者を押しのけながら病院前を後にするアルバート伯の写真。 折り曲げてよれよれになった新聞紙の裏を返す。留め金で固定した二枚目の記事がある。こちらは短いものだ。けれど目立って面白いことはかかれていない。令嬢の用紙だの、なんだの、殺された令嬢とマーッケットプレイスで、と一枚の写真が載せられていた。この男は確か令嬢が殺された前日に死体が見つかったジェイ・ウェスタン。奇妙な偶然だ、と思いながら記事にざっと目を通す。 ローズ・センツァバーグ。二年前センツァバーグ家養女として迎えられる。十七歳。鳶色の目、赤がかった茶色の髪の毛。クランス伯と一年前に婚約中。今年二月に挙式予定。挙式後は英国へ。 ロバートははっとして先程の記事を捲ってみた。 風が大きく吹いた。手に持っていた記事を攫って、それはあおり葉巻と同じ運命を辿った。しまったと毒づいたロバートは記事を思い出す。 「鳶色の、瞳」 先程の少女も鳶色の瞳をしていた。しかも写真とよく顔立ちが似ていた。 いや、しかし生きていることなど。けれど、見つかった死体。自分もこの目で確かに見たが、あれは顔の判別が付かなかった。外的証拠から彼女が令嬢であると結論付けたが、それは、本当に正しかったのか。 どん。地鳴りがした。鼓膜を劈くほどの檄音。とっさに耳を塞いだが、耳がまだ痛い。手を耳から離して、いつの間にかその場にしゃがみ込んでいたロバートは水面に顔を向けた。てらてらとそれは赤い光を受けて輝いている。 両手を突いて立ち上がったロバートは、それを見た。もくもくと煙が上がり、赤い炎が蠢いているそれを。先程まであんなものはなかった。あちらの方向は、確か。 「くそっ」 娘の名前がローズ、という偶然。同じ色の目。もしかしたら先程のあれが。だったら何故あの炎が沸いた場所へ向かったのだろうか。あれは、彼女達が起こしたものだろうか。 二十年ぶりに、血が滾った。 中年太りを恨めしく思いながら、ロバート・ヨザックはそちらにかけていった。 忠告は、やはり無意味だった。
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