邂逅(B E L I B E)



 フィリップの横を鋭いものが掠った。それを手で押さえてひっくり返せば、遠くから銃を構えていたエミリアが脳を打ち抜く。打ち抜かれたそれは腹部にもう一発叩き込まれて絶命した。土くれになってそれが消え、服だけが残る。まあ、ズボンだけだったが。

「綺麗なねーちゃんが相手だったらよかったのによ」

 ぶつくさ言いながら、フィリップはグローブに嵌めた鉄の調子を見た。さっき一本折れてしまったんだよな。けれども悪趣味じゃないから、鉄の部分は飛び出てない。手袋にてっっぱんを四枚くらい貼り付けているだけだ。殴ったら岩が砕けるけど、まあ、それでも奴らの骨は砕けない。

 大きく空気が跳ねた。全てを揺るがすほどの勢いで連続的に爆音を立てている。赤い炎と煙が上がり、容赦なく火の粉がばら撒かれる。近くには樹木があるというのに、だ。

「軽口を叩いている暇があるのなら、さっさと片付けて欲しくてよ!!何故銃を持ってこなかったんです!? 火薬を爆発させるなんて!! 近隣住民の心情を慮るべきですわ!!」

どん、どんとさらに近くで音がする。脳天を的確に打たれたそれらは徐々に砂になり、消えていった。

 そのうちいったい、エミリアが殺しそこなったそれが自分の元に突進してくる。

「このっ!!」

右手で殴って跳ね飛ばす。

 頭を砕こうとそれに向かって振りかざす。

 それより早くエミリアがそれの腹部と脳天を打ち抜いた。さらさらと砂になるそれを上から見ながら、背後に立つ女に向けて一言放つ。

「何すんだよ」

「野蛮人。そんなことしたら地面が割れますわ」

金髪のいけ好かない女は不適に微笑んで、真っ赤な唇を歪めた。

 まあ、こっちの方が、あれよりいい。

「何をしている? 遊んでいるなら帰れ」

 こちらに歩いてきながら、確実にその数を撃ち減らしていたフロックコートの男が不機嫌そうに声をかけた。先程から無言で銃を連射し、エミリアよりも多くの敵を殲滅している。流石は。感嘆の声をあげたエミリアのそばで、フィリップが鼻を鳴らす。

「いい気になってんじゃねぇぞ。この根暗。お前なんて、ローズがいねぇとなぁーんにも出来ねぇだろうが!」

「なんだと?」

沈着冷静。いつも不機嫌な双眸が、さらに不機嫌そうに歪められた。

 エミリアははあと息をついた。こいつたちときたら。フィリップはともかくとしてクロウは外見に反して、短気だった。しかも外見どおり気難しい。大体フィリップとクロウがいがみ合い、適当なところでローズが止めに入るのだが、今日は、というよりこの五年間ローズはいない。ちなみにこのローズがいない期間の勝率は大きくクロウに傾いている。しかも今、彼は一番機嫌が悪い。

「そんなことしている暇なんて、なくてよ」

うんざりとした声で、エミリアは言ったが、ヒートアップした彼らを留めることなど出来ない。

クロウは真っ直ぐにフィリップの額に銃を当て、フィリップはクロウのあごの下に手を添えている。ああ、めんどくさい。どちらも一回死ねばいい。

ローズがやっと戻ってきたのに、自分のことを忘れられていたクロウは、酷く不機嫌だった。かなり子供っぽい理屈だが、これが、クロウだった。しかも今は、せっかくそばにいられると思ったそのローズからも引き離されて、ここに強引に向かわせられた。ローズのためだといえば、まあ仕方が無いのかもしれないが。はっきり言って、面白くない。しかも屋敷にはカナリアはともかくとして、エヴァンスとKを残してきている。彼女のそばに他の男がいるなど、許せるはずも無い。

この通り、かなり大人気ない、かつ子供っぽい思考でクロウは無言でフィリップを睨み続けていた。

「バカ               !! そこの、ボンクラと根暗!! 何をしているんだい!! 全く、君たちときたら五年前と何も変っていないじゃないか!!」

晦闇にただよう闇さえも射抜くほどの声が響き渡った。

次いでそれの顔面目掛けて、何かが迫り来る。

がんがんと、音が遅れて。

フィリップは慌てて後方に退き、クロウは屈みこんだ。頭上を通り過ぎた弾丸は、そのすぐ横に迫っていたそれらの脳天を確実に打ち抜いた。

ハッと我に返ったエミリアが、そしてクロウが銃をそれの腹部に当て、打ち抜いた。

急速に車がこちらに突進し、三つの影が飛び上がった。

 車はあっけなく夜の海に沈んだ。ぶくぶくと音を立て、ガソリンがまだ大量に積んであったことから大きく爆発した。水蒸気が舞い上がり二十メートルくらいの、大げさだ。十メートルぐらいの水の柱が出来上がって、消えた。

 黒い煙と赤い煙が立ち上り、頭から海水をかぶった総勢六名は揃って顔をしかめた。

「ブレーキの調整くらいしておけよ! エヴァンス!!」

噛み付くようにKが言う。






    

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