邂逅(B E L I B E)



 その様子をアルバートは嬉しそうに見ていた。こちらを走ってくる黒い影が二つ。どちらも古い繋がりがある。だからこそ、嬉しい。

 こちらに向かってくるのだから、こちらも出向いてやってもいい。そう思って、彼は歩き出す。ふら、ふらと後ろからそれが歩くのを見やりながら。

 計算外だったのは彼女の記憶が戻ってしまったことだけ。まあ、思い出しても今度はそうさせない。捕まえたらもう一度、消すまでだ。今度はこのような失敗はしまい、五年前のように彼女を捕まえ、そして三年前のような失敗はしないようにしよう。

 アルバートは両手で目を覆った。

 悉く自分の願いを叩き潰す彼女が、憎くて、愛しかった。

 それだけのために、自分は長い年月をかけて、彼女を探し、そして手に入れたのに。彼女はまた、あの男のもとへと帰ってしまった。自分を殺した男の下へ。あの日のことを、アルバートは一生許さない。

 やがてそれが目の前に来た。立ち止まって銃口を向ける。

 煌く瞳は鳶色、髪の色は。

「思い出しましたか?レディ・ローズ。その髪の色を誰がなんと称したか」

 両手を広げて男はいった。

 旧友に向けてローズは銃を向け、撃鉄を挙げた。

「さあ? 私の記憶の中では君ではなかったはずだけれどね。アイザック」

 どうやら本当に戻ったらしい。何もかもが彼女らしい。レディ・ローズよりもずっと彼女に会いたかった。あったら一番に。

 殺してやろうと思っていた。

 けれど後ろにはあの男がいる。歯噛みして、けれども余裕の笑みを崩すことなく、口元だけ笑っている男がこちらを睨みつけた。

 風に吹かれて周囲の木々が掠れて音を立てる。天候は荒れていた。空には暗雲が伸び、波の音が激しく打ちつける。伸びる影を踏み付けながら、ローズは口を開いた。

ケリをつけようか(フィナーレだ)。アイザック、それともアルバート? どちらの名前の方がお好みなんだろうね?」

 相変わらず腹の立つ言い方だ。こちらを挑発しようとして彼女はいつもそう呼びかける。それがとても嬉しかった。アルバート伯はゆっくりと頭にかぶっていたハットを取るとそれを胸の前に添えて深々と礼をした。瞳の色が、変質する。

 真っ赤な瞳が、まるで鮮血のように闇夜に浮かび上がった。

 ぞくりと肌が粟立った。だから、ローズは銃を握る手に力をこめた。

 クロウは後ろに立っていて、びりびりと空気を揺らす殺気を放っている。

「へえ、殺される覚悟が出来たっていうの?」

「不死者は殺せない」

彼はにやりと笑った。いくら彼女が自分を殺そうとしても、自分は彼女たちと同じ不死者。何度殺しても蘇る。

「本当にそう思っているんだ? ヘレンと、ケルゼンを殺した君が?」

 ローズは歩き出しながら、銀の銃の引き金に指を添えた。

「君は持っているんだよね? 私たちを殺す手段を。私を実験台にして手に入れた、ものを」

 くすりとローズは口を歪めた。そしてそれの脳天に銃口を向けた。

「人を実験台にしておいて、それは無いんじゃない? アイザック。お前の研究成果を私が知らないと思っていた?」

 アルバートははっとして顔を上げた。そしてあげた瞬間その右目に銃口が突きつけられ、ためらいもなく引かれた。

 鮮血が飛び散り、ローズの顔を染め上げる。

 アルバート伯の目は驚愕に見開かれ、よたよたと後ろに後ずさり始める。

ローズが、全部教えてくれた。君があそこで何をしていたのか、私を使って何をしようとしていたのか。忌わしきものに私の細胞を取り込ませ、強靭な肉体と二つ以上の心臓を持たせたこと。私の血を持つ仲間をどうやって殺し、不死者の呪いを解くのか。君はそのために私の細胞を調べつくしたね?」

「それが・・・・・・」

右目を覆って、アルバートが下がる。血液は流れ続け、傷もふさがる様子は無い。

「付け焼刃じゃ、どうしようもないんだけど。・・・・この弾丸、特性なんだ。細胞の主体であるたんぱく質をヴァンに言わせて取り出させ、そのたんぱく質と細胞を急速に再生させる遺伝子を融合させた。まあ、そんな短時間で出来るほどの代物じゃないっていうことは、彼らがもとから自分がどうやったら死ねるのか、その研究をしていたということだよ!!」

 本当なら、人並みに生きて寿命を迎えるはずだった彼ら。それを歪めてしまったのは自分だ。それは変えようも無い真実。それを選び取ったのは彼らだ。けれど、その原因となったのは。

 悲鳴をあげるようにローズはそれに向けて叫んだ。

「お前だ。アルバート。お前も私も、彼らの運命を歪めた。歪めて狂ってしまった彼らの歯車。私は彼らに生を与えるたびに聞いたよ。後悔はしないか、と」

 その言葉を、今ははっきりと思い出せる。






    

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