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閉幕
倒れた向こうから、よろ、よろと何かがこちらに歩いてくる。黒いシルエットに照らされて、それの顔はわからない。ただ、頭に何か包帯のようなものを巻いているのか、白い布が歩くたびに落ちていく。 その時、がさりと茂みがなった。でてきたのは一人の人間。少し体格のいい四十代ほどの男性だ。さっき引きかけた男だと気付いたローズは、血まみれの自分を弁解しようともせずに、その男がこちらを見るのに任せていた。 疲れてクロウに寄りかかるローズを見たロバートは、そこに転がっているものに目を丸くした。 急いで駆け寄って、身体を起こす。酷い有様だ。右目は打ち抜かれ、反対の目は見開かれている。何発、打ち込まれたのか、もう絶命していることは確実だった。流れる血は既に渇いている。 そう。 渇いている。 「は、伯爵!! 噛み付くようにロバートが言えば、隣を何かが通り抜けた。よろよろと通り抜ける頼りない体。後姿を見て、ロバートはいぶかしんだ。頭に巻かれていたらしい包帯は徐々にほどけ、そして足元に散らばった。 「っ!」 男に寄りかかっていたあの鳶色の瞳の娘が口を覆った。手から銃が零れ落ち、金属の音が広がる。 「クランス!!」 見開かれた目、娘はそれを驚いたような目で見た。 けれどこちらはそれが見えない。 それにクランスだと? 入院中の伯爵じゃないか。 ぴくり、とそれが動いた。 指先が動いて、ぎょっとした。 ロバートはそれを慌ててみた。まさか、生きているはずが無い。 まさか生きているはずが無い。 ローズはそれが銃を抜くのをじっと見ていた。いつもの姿の彼は、にっこりと微笑するとローズに銃を向けた。そして、躊躇わずに、引き金を引いた。 「ローズ!!」 訪れた発砲音にロバートは驚いて顔を上げた。銃を向けた何者かが、少女に向けて銃を発砲した。少女は人形のように倒れこみ、後ろの男が支えた。小さく吐血して、鮮血が口から零れる。 むくり、とそれが起きた。ありえないと思った。 ロバートは活眼してそれを見た。信じられないことだ、と。 御伽噺なんて。そんなもの存在しない。 胸を打たれたはずの娘は黒い銃を手に持って、今度は真っ直ぐにこちらに銃を向けた。 打たれると思ったロバートは顔を必死に覆ってその場にうずくまった。数発発砲音がした。その音が木霊して、けれど痛みはいつまで経っても訪れなかった。 やがて、すぐ近くで声がした。 「楽しい芝居だったよ」 声は近くでしたが、遠かった。 「貴様」 少女を抱えた男が、憎々しげにこちらを見た。 それすらも嬉しそうに、銃を少女に向けた少年が微笑んだ。 「付け焼刃でも威力は相当なものだな。ローズ。流石は、君だ。けれど今一歩及ばなかったようだね。危ないところだったよ。後ろにいた本体の方が殺されたらたまった物じゃなかったからね」 それは自分だとクランスは微笑んだ。 後ろにあるかつての自分を見つめながら、それが徐々に再生していくのを確認して、クランスはそこにいる男を睥睨した。 「やあ。ロバート。どうだい? 楽しい見世物だっただろう?」 「クランス!!」 「僕はクランスじゃないよ、ローズ。身体はクランスだけど、ね? ああ、でもそんなもの、最初から存在していなかったから」 クランスの声で、クランスは淡々と答える。仕草さえもクランスそのもので。 「まあ、少しは余分な思考も残しておいたから、この肉体の持ち主は自分がクランスだと勘違いしていたようだけれどね。滑稽だろう? ありもしない存在との結婚なんてね」 ロバートは慄きふためいてその場を徐々に交代し始める。 それを横目で見たアルバートはぐるりと壊れた機械のようにロバートを振り返った。 「本体はもう、こっちに移動しちゃってるんだけど。あっちにも意識があるからさ」 「リー!!」 お願い。撃って。
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