|
閉幕 ローズは銃を持って走り出し、クランスの横を通り過ぎてそこへ向かった。クランスはローズの方に振り返ったが、その腹部にクロウの弾丸が注ぎ込まれた。 「君ね、いつまでも古いものばっかり使っていたらダメだよ?そのコートもさ。18世紀のものじゃないか。古いんだよ、そういうの」 呆れたように腹部から血を流したクランスはことさら、なんとも無いというように飄々としている。そしてクランスはクロウの腹部に仕返しとばかりに蹴りを見舞った。 吹っ飛ばされたリーは近くの木の幹に叩きつけられる。 ローズは走って突然茂みから現れた男を庇い、アルバートの死体に銃口を向けた。 「あ、な、おまえ、は」 「黙って。煩い」 そして銃口を引いて、固まった。 「しまった」 銃倉はもう空。予備も使い切って、完全にもう無い。 アルバートの手がローズの首にかかった。体ごと持ち上げられ縊り殺される。 「一度ここで殺しておくか。首の骨を折ると、再生が厄介だから丁度いい時間稼ぎにはなるよね」 「ローズ!!」 ばたばたと足音がする。 「クロウ・リー!!」 エヴァンスがクロウを助け起こせば、エミリアが真っ直ぐに銃口を向けた。 けれど目の前にいる少年は、確か。 「クランス伯?」 いったい何故この青年がここにいるのか。 病院で入院中ではなかったのか。 そしてなぜ標的であるアイザックがクランス伯の後ろにいるのか。 どちらを狙ったらよいのかわからずエミリアは迷う。 「ぐ・・・・」 足をばたつかせ、ローズの足がアルバートの身体をける。けれどそれでも力が緩んで開放されることはなかった。自分の首を締め上げる男の顔を見れば、薄く微笑んでいるのだから、やってられない。 霞む視界。 このままでは五年前と同じようになってしまう。 そんなことはしたくなかった。 だから。撃てない彼の代わりにリアに頼んだ。 「撃てぇっ!!・・・・あぐっ・・・両方ぅ!!」 締め付ける手の力が強くなった。 エミリアははっとして銃をローズを締め上げる男に向けた。 「エミリア!!背後からも来るよ!!」 泣きそうな声でKが言った。フィリップが舌打ちして、なぎ倒し始める。 エヴァンスが撃て、といった。 撃てといわれて、はじけるように二つの銃口が向けられた。そして引き金が引かれ、ローズの体が滑り落ちた。 エヴァンスの身体を払い除けてクロウが駆け寄れば、ひゅうひゅうと息吐くローズがいた。抱え込んで抱きしめ、そして頭を撃ちぬかれ倒れているそれを思い切り蹴飛ばした。そして背後で立ち尽くすクランスの背中を足で蹴りつけ、跳ね飛ばす。 「く・・・そ」 計算外だ。クランスは地面を掻いた。だけど、誰も自分を殺すことは出来ない。再生を始める心臓の鼓動を確かに聞き取りながら、クランスはにやと笑った。
「クロウ! 早く乗って。フィリップ、彼も一緒に連れて来て!!」 卵色の髪をした女が叫んだ。 フィリップは仕方ないと呟いて、腰が抜けて動けないまま銃を握り締めている中年男をいやそうに見た。そして担ぎ上げて走り出す。 「早くしてくださる!? 弾切れなんですのよ!!」 助手席に乗り込んだエミリアが先に動き出した車を追って走り出す。フィリップは走って追いつき、それに乗り込むと後部座席に座るカナリアの隣に男を降ろした。何が悲しくて男なんぞ抱かねばならない。 カナリアは驚いて身を強張らせ、ややあって息を吐いた。真っ直ぐに前を向いた彼女の前にはエミリアの金髪がある。その傍らには老人が座っていた。 ロバートはそのどことなく見たことがある老人の後姿を見て唖然とした。なぜ、英国の警視総監が、ここにいるのだ。いや、それだけではない。名だたる財団の管理責任者そして理事長である彼が、何故こんなところにこんな連中とつるんでいるのだ。英国にいるはずの彼が、何故アメリカに。 老人は前を見たまま静かに言った。 「ロバート・ヨザック。ここで見たことは他言無用だ。いいな」 何故、と切り返すことなど出来はしない。有無を言わせず納得させる何かが老人にはあった。だからロバートは何も問わなかったし、問えなかった。彼の人生がこのあと激変することはもうどうしようもなかった。
|
|||||||